ビジョンハウス研修レポート
エフェクチュエーション研修 ~ 優れた起業家が実践する5つの「 原則 」~
2024/5/13
今回のテーマとゲスト
「 エフェクチュエーション研修 ~優れた起業家が実践する5つの 『 原則 』~ 」
講師:神戸大学経営学研究科 准教授 吉田 満梨 様
弊社メンバーの学びの場である「 社内勉強会( ビジョンハウス研修 )」の内容を紹介します。 毎回素晴らしいゲスト講師をお招きし、弊社メンバーだけでなく、このページをご覧になった皆様にとっても学びや気づきを得る機会となることを願い、研修のポイントを公開しております。
今回は、神戸大学経営学研究科 准教授の吉田満梨先生にお越しいただき、起業家が実践する5つの「 原則 」であるエフェクチュエーションの考え方について講義いただきました。
1. ご講義テーマの背景
従来、 ビジネスの中では、 「 目的 」 に対して 「 手段 」 を検討するというコーゼーション的なアプローチが重視されてきました。 しかし、 VUCAと言われるこの時代において、 目指すべき将来のあるべき姿は容易に設定することが難しい時代におけるアプローチ法として、 手段に重点を置いた手法として注目されているのが、 「 エフェクチュエーション 」 のアプローチです。 著名な起業家の思考方法をたどると、 必ずしも明確なあるべき姿/目標が先に設定された訳ではなく、 漠然と考える方向性の中で手元に保有するアセットを最大限に利活用することで活路を見出した成功例を挙げれば枚挙に暇がありません。 本セミナーでは、 吉田先生から起業家に今の時代にこそ必要とされる思考方法、 5つのステップについて解説いただきました。
2.講義内容
(ここからは、吉田先生の講義を要約した内容となります。)
~ 起業家が実践する5つのステップ
エフェクチュエーションとは、 起業家が新しいビジネスを創出する際の思考プロセスを表す理論で、 サラスバシー教授によって提唱されました。 この理論は、 起業家が将来の不確実性を前にしてどのように行動するかを説明します。 エフェクチュエーションは次の5つの原則から成り立っています。
1 ) 手中の鳥
1つ目の原則は「 手中の鳥 」です。 これは、 起業家が現在持っているリソースを最大限に活用することを意味します。 リソースは、 資金、 スキル、 ネットワークなど、 手元にあるもの全てを指し、 起業家は、 これらのリソースをどのように組み合わせ、 どのように活用するかを考えていると捉えられています。 例えば、 自分が得意な分野をビジネスの中心に据え、 その周りに存在している自分のネットワークや知識を利活用してビジネスを立ち上げて、 展開するといった行動が考えられます。
ここでは、 起業家がビジネスを始める際には、 まず手元にあるリソースから出発するべきだという考え方を示しています。大きなビジョンや目標を確定させる前に、まずは自分が何を持っているのか、何ができるのかを確認し、それらを基に行動を始めるべきだという考え方です。 実はこの考え方は、リソースが限られている状況、特に新たにビジネスを始める際には非常に有効です。なぜなら、新たなビジネスを始める際には、多くの不確実性が存在し、その状況下でブレイクスルーするためには、自分が持っているリソースを最大限に活用することが重要だからです。
また、この原則は、ビジネスを始める際には、大きなビジョンや目標を設定するのではなく、まずは手元にあるリソースを活用して小さな一歩を踏み出すことの重要性を示しています。これは、ビジネスを成功させるためには、大きなビジョンや目標を設定するだけでなく、それを実現するための具体的な行動がより必要であるという考え方を示しています。
以上が「 手中の鳥 」の考え方についての説明ですが、 この原則を理解し、 自分が持っているリソースを最大限に活用することで、 新たなビジネスの成功のための一歩を踏み出すことができると分析されています。
2 ) 許容可能な損失
続いて「 許容可能な損失 」とは、 リスクを取ることによって得られる利益と損失のバランスを指します。 経営学では、 企業がリスクを取る際には、 そのリスクが許容範囲内であることが重要視されます。 まず、 許容可能な損失は企業や個人のリスク許容度によって異なります。 ある企業や個人にとっては、 数百万円、 数千万円の損失は許容範囲内であるかもしれませんが、 当然、 別の企業や個人にとっては数十万円の損失ですら許容できないかもしれません。 したがって、 許容可能な損失を決定する際には、 その主体のリスク許容度を考慮する必要があります。
次に、 許容可能な損失やその影響は、 投資や事業活動におけるリスク管理において重要な要素と言えます。 企業が新しい事業に投資する際や新商品を開発する際には、 その事業や商品が仮に失敗した場合の損失を見積もる必要があります。
また、 許容可能な損失は投資家や株主にとっても重要な要素です。 企業がリスクを取る際には、 投資家や株主にそのリスクを説明し、 許容可能な損失であることについて合意形成が図られる必要があります。 上述のように、 許容可能な損失はリスク管理や投資活動において重要な考え方であり、 企業や個人のリスク許容度や投資家の期待に合わせて適切に考慮される必要があります。
3 ) クレイジーキルト
「 クレイジーキルト 」の考え方は、 エフェクチュエーションの中でも特に重要な要素で、 ビジネスの世界におけるパートナーシップや協力関係の形成を指します。 この考え方は、 アメリカの伝統的なパッチワークキルト、 特に「 クレイジーキルト 」から名前が取られています。 クレイジーキルトは、 異なる形状、 色、 素材の布片を繋ぎ合わせて一枚のキルトを作るというもので、 その過程はまさにエフェクチュエーションの考え方と一致します。
ビジネスにおける「 クレイジーキルト 」の考え方は、 異なるスキル、 知識、 リソースを持つ人々が協力し合い、 共に新しい価値を創造するというものです。 それぞれのパートナーは自身の能力やリソースを活かし、 共同で目標に向かって進むことで、 個々では達成できない大きな成果を生み出すことができます。
例えば、 新しいビジネスを立ち上げる際、 一人で全てを行うのは困難です。 しかし、「 クレイジーキルト 」の考え方を活用すれば、 マーケティングの専門家、 開発者、 販売のプロなど、それぞれ異なるスキルを持つ人々と協力することで、 ビジネスを成功に導くことが可能になります。 また「 クレイジーキルト 」の考え方は、 単にビジネスパートナーを見つけるだけでなく、 その関係性を維持し、 深めることも重要です。 パートナーシップは信頼と尊重に基づいて築かれ、 それぞれのパートナーが互いの成功を目指すことで、 全体としての成功につながります。
このように「 クレイジーキルト 」の考え方は、 ビジネスにおける協力関係の形成と維持、 そしてそれによる新たな価値創造の重要性を示しています。 それぞれのパートナーが自身のリソースとスキルを活かし、 共に目標に向かって進むことで、 個々では達成できない大きな成果を生み出すことができるのです。
4 ) レモネード
続いて「 レモネード 」の考え方もエフェクチュエーションの中で重要な要素で、 これは「 予期せぬ事態や困難をチャンスに変える 」という思考法を指します。 この考え方は、” When life gives you lemons, make lemonade. “( 人生がレモン( 困難 )をくれたら、レモネード( チャンス )を作ろう )という英語のことわざから名付けられました。 つまり、 想定したものが生まれるかもしれない不確定要素を享受し、 次へのステップへ活かしていくというスタンスが重要になってくる訳です。
ビジネスの世界は常に変化し、 予測不能な要素が多く存在します。 しかし、 エフェクチュエーションの「 レモネード 」の考え方を持つ起業家や経営者は、 そのような予期せぬ変化や困難を恐れず、 逆にそれを新たなビジネスチャンスとして捉えることができます。 例えば、 新型コロナウイルスのパンデミックは、 多くの企業にとって大きな困難をもたらしました。 しかし、 一部の企業はこの困難をチャンスに変えることができました。 リモートワークの需要が高まったことで、 ZoomやSlackなどのリモートワーク支援ツールは大きな成長を遂げました。 また、 外出自粛による自宅での過ごし方の変化から、 NetflixやAmazon Prime Videoなどのオンライン動画配信サービスも利用者を増やしました。 これらの企業は、 予期せぬ困難( レモン )を新たなビジネスチャンス( レモネード )に変えることができました。これが「 レモネード 」の考え方の具体的な実践例です。 このように、「 レモネード 」の考え方は、 困難や変化を恐れず、 逆にそれをチャンスに変える柔軟な思考を持つことを求めます。 これは、 ビジネスだけでなく、 私たちの日常生活においても非常に有用な考え方と言えるでしょう。
5 ) 飛行機のパイロット
「 飛行機のパイロット 」の考え方は、 エフェクチュエーション理論の中で、 起業家が未来を予測するのではなく、 現在から未来を形成していくという考え方を表しています。 これは、 飛行機のパイロットが飛行中に様々な要素( 風向き、 風速、 気圧など )を考慮しながら目的地に向かって飛行機を操縦する様子に例えられています。
まず、 飛行機のパイロットは、 飛行前には目的地とルートを決めますが、 飛行中には天候や風向きなどの変化に対応してルートを変更することがあります。 これは、 起業家がビジネスを進める上で、 当初の計画通りに進まない場合や、 新たな機会が見つかった場合には、 柔軟に計画を変更していくことを意味します。 また、 パイロットは飛行中に機体の状態や気象情報などを常にチェックし、 必要に応じて操縦を調整します。 これは、 起業家がビジネスを進める上で、 市場の動向や顧客の反応などを常に把握し、 必要に応じてビジネスの方向性を調整することを示しています。 さらに、 パイロットは飛行機を操縦するための専門的な知識と技術を持っています。 これは、 起業家がビジネスを成功させるためには、 そのビジネスに関する深い知識と経験が必要であることを示しています。
このように、「 飛行機のパイロット 」の考え方は、 起業家が未来を予測するのではなく、 現在から未来を形成していくというエフェクチュエーションの考え方を具体的に示しています。 起業家は、 自身の知識と経験を活かしながら、 市場の動向や顧客の反応を見ながら、 ビジネスの方向性を柔軟に調整していくことが求められます。
3. セミナーを振り返って
通常では、 今回実施いただいた2時間のセミナーではなく更に時間をかけてご教授いただく内容であるはずが、 時間上の制約の中でかなり凝縮して先生には、 ご教授いただきました。 吉田先生の「 エフェクチュエーション 」は、筆者が所属する神戸大学経営学研究科( MBA )において、コーゼーション( = 因果論 )のアプローチに慣れ親しんだ上場企業在籍の学生たちにも好評を博していました。 アントレプレナー、 コーポレート ・ アントレプレナーなど様々な環境下での新たな事業創出を期待されているビジネスパーソンにとっては、 不可欠なアプローチ法であること、 そして、 多くの実務家にとって共感を得ていたと捉えています。
また当社のコンサルタントの中にも「 エフェクチュエーション 」の考え方をベースにプロジェクトを遂行してきているメンバーも何人も存在しており、 先生の講義終了後には、 質疑応答の時間を延長していただくことになり、 良い学びの場になりました。
改めて、 多忙な毎日の中でセミナーにご登壇いただいた吉田先生に感謝申し上げます。 ありがとうございました。
記 : 稲垣 一郎
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