不確実性の高い時代に自らの意思で未来を切り拓く【ビジョンハウス研修レポート 】
2023/6/1
今回のテーマとゲスト
「 不確実性の高い時代に自らの意思で未来を切り拓く 」
講師: 株式会社Photosynth(フォトシンス) 代表取締役社長 河瀬 航大 様
弊社メンバーの学びの場である「 社内勉強会( ビジョンハウス研修 )」の内容を紹介いたします。 毎回素晴らしいゲスト講師をお招きし、 弊社メンバーだけでなくこのページをご覧になった皆様にとっても、 学びや気づきを得る機会となることを願い、 研修のポイントを公開させていただいております。
世界初の後付け型スマートロック「Akerun(アケルン)」を開発&提供するものづくり系スタートアップ企業である株式会社Photosynth(フォトシンス)の代表取締役社長である河瀬航大様( 以降、河瀬さん )をお招きし、起業と事業成長にむけたポイントをお話頂きました。 起業するにあたって、新しい着眼点を如何に生み出し、アイディアを具体的な形に落とし込み、市場を切り開いていくために乗り越えてきたカベや、事業開発の醍醐味、また先端を創る組織としての面白さなど、今後の日本企業のイノベーション創出に対してもとても示唆に富んだお話でした。 大変お忙しい中、我々の今後の知見を深めるためにお時間を頂いたことに、改めて感謝申し上げます。
1.講義テーマの背景
昨今、我々のクライアント様の中でも新規事業開発や社内発イノベーションの重要性はこれまで以上に注目度が高まっています。 今回、改めて起業家である河瀬さんから肌感覚も含めリアルなビジネス創造における重要な志や目的、プロダクトマーケットフィットを生み出す具体的な手段創造、創業期から成長期にかけてのポイント、そして今後の更なる成長に向けてといった、我々としてもクライアント様の事業成長、事業創造をサポートさせていただく当事者として対話を通じながら知見を深めたいと思い、ご依頼させていただきました。
2.講義内容
□ プロフィール
河瀬さんは種子島出身で科学が好きな少年時代を過ごしました。 その後、大学でビジネスコンテストを開催している団体で代表を務めています。 この時、弊社の狩野がビジネスプラン策定に関する講義を担当させてもらったのがきっかけで繋がりが出来ました。その後、ガイアックスで新規事業開発に携わり、2014年~フォトシンスを起業されました。
(ここからは、河瀬氏の発言を要約した内容となります。)
□ フォトシンスとAkerunの特徴
我々はIoT( Internet of Things )の会社です。 ベンチャーはITが多いのですが、フォトシンスはものづくり企業という点で珍しいと思います。 Akerunの特徴は後付け型のスマートロックをスマートフォン等で開けることが出来ること。 実は、 ものづくりとソフト開発の組み合わせはこれまでありそうでなかったのです。 Akerunの特徴は様々ありますが、IoTであるために施錠と解錠の履歴も取れ、全国の拠点でだれがどこで鍵を開けたか分かるようになってます。 これまでの工事施工が必要な電子キーでは予算が100万円程度かかりますが、Akerunは初期費用が全く掛かりません。 サムターンにかぶせるように設置するだけで済みます。 現在累計7,000社を超える導入になりました。法改正も追い風になってきていますし、コロナも追い風になっています。社員メンバーがどれくらい出社しているかなど、すべてデータで分かるので、社員人数の増減も分かります。Akerunによって、空間の自由化が起きてきています。今まさにIoTの醍醐味を提供できていると感じています。
河瀬様 プレゼン資料より抜粋
□ 起業の背景
なぜ鍵で起業したのかはよく質問を受けます。 きっかけはいつもの飲み会の場でした。仲間と話をしている中で、鍵って無くすこともあるし、カバンの中から探すのも手間、鍵を受け渡すのも面倒に感じたといったたわいもない話から、鍵が長らく変化していないことに気が付き、カバンの中身は既にデジタル化されているモノばかりなのに、鍵は未だアナログのまま使っていて、多くの「不」があることに気が付きました。
もし、鍵がデジタル化されれば、多くの不を解消できるし、セキュリティを守る以外でも空間の出入りのデジタル化によって引き起こされる変化は大きいと感じました。 そこから、週末仲間たちと集まり、アイディアをカタチにしていきました。 ソフトウェア/ハードウェアやマーケティングなど得意分野を持ったメンバー同士が集まり趣味的にスタートさせたAkerunアケルンが新聞に取り上げられ、問い合わせが殺到したことがきっかけで未来を感じ市場に参入することを決意しました。
河瀬様 プレゼン資料より抜粋
□ 量産化のカベ
ただし、そう簡単には行きません。 プロトタイプとして完成したAkerunを量産化するためには、これまでの1万倍大変であることに気が付きました。
1つ目のカベは量産化に向けた資金がないこと。 まずは金型や組み立てなどを考えると億単位でお金が必要になります。 また、起業したばかりなので信頼がありませんから、工場に生産をお願いするにしても前入金でお支払いが発生します。 ですので、資金調達に翻弄する毎日でした。 そのため、とにかく想いをぶつける場を沢山作り、色々なピッチイベントにも参加しました。 このおかげで様々な企業からの資金調達に成功します。 今後自らが創る未来を伝え、共感者と協業者を如何に作り出せるかが肝であり、想いをPRにどれだけ乗せられるか、PRをどこで最大化させるかが極めて重要であると思います。
2つ目のカベは人手が無いこと。 我々の製品はIoTプロダクトなので、多くの領域の専門家が必要になります。 しかし、ノウハウを持ったプロはどこにいるのか分からない状況でした。 そのためひたすら知見をもった人を探し回りました。 結果、高度経済成長のものづくりをけん引してきた団塊世代の方に力を貸してもらいました。 それ以外にも起業以前からのコミュニティで人脈を多く創っていたことにも救われました。 やはり、仲間作りは極めて重要であると身をもって学びました。
そして、最後3つ目のカベは時間がない! リリース予定が間近になり、他社から似たプロダクトが出されることを知り、新プロダクトを市場に出すための戦略をメンバーと共に描きました。 やはり重要なのは先手必勝。競合にされたらいやだなと思うことから対応していく、ビジョンを絶えず発信し、メンバーを鼓舞する。 あえて目立たず、製造と出荷に注力し、相手が動く前に一気にプロダクト発表とメディア発表を実施し、改めて戦略にはメリハリが必要であることを学びました。
□ 上場へのカベ
フォトシンスは起業から7年で上場を果たしていますが、上場に至るまでのカベもいくつも立ちはだかりました。 まずは、BtoC市場を狙ってしましたが、ユーザー数が増えて来ない。 なぜ増えて来ないのかを見極めるためにPMF( プロダクトマーケットフィット )の考えに立ち返りました。 現状のユーザーに確認すると、マンション住まいでご購入頂いている方も多くいました。 しかし、マンションはエントランスがオートロックになっているケースも多く、結局、自宅のカギはAkerunを付けていても、マンションに入る玄関では従来の鍵を使っていました。 これではPMFが効いていない。
調査をして分かったのは、結局、いろんなところで使われていましたが、イノベーターやアーリーアダプターが面白いだけで買っていたんですね。 となると、だれの、何を解決しているのかが見えなくなった。 そこで、100社以上にヒヤリングして、PMFを仮説化しました。 そのうえで、「 Must Have( なくてはならない )」か「 Nice to Have( あったら便利なもの )」は何か?を設定し、「 Must Have 」になっているセグメントのみをターゲットにして、商品開発をしました。 結果、ターゲットとしていた個人宅ではなく、方向転換してBtoBにし、喉から手が出るほど欲しいと思ってもらえる企業様に特化したプロダクトにしました。 結果、毎月1,000件を超える問い合わせに繋がっています。
河瀬様 プレゼン資料より抜粋
次なるカベは営業の壁です。 IoTという企業の特徴からして、当時はどうしてもエンジニア中心になってしまいました。 しかし当然ながら売り上げが立たないと倒産してしまいます。 ですので、正直にエンジニアも含むメンバーに資金などの状況を伝えました。 ここからかなり空気が変わり、一気に営業にも注力するようにしました。 PMFがあるマーケットに絞り込むことが重要であり、営業を徹底することの重要性を教えられました。
そして、最後は組織の壁もあります。 一気に組織が大きくなっていくと、当然ながらメンバーの人数も多くなっていきます。 全体が機能しなくなってしまう危機感もあり、体制を大きく変えました。 サークル的な組織ではなく、企業としての組織体として結束力を高めていく形に変化してきています。 更に今後は新規事業もクリエイティブに創造していきたいと考えています。
□ 最後に今後のビジョンとメッセージ
これからのフォトシンスの未来はキーレス社会を創ることを目指しています。 23区内はすでにAkerunで埋め尽くされつつあります。 認証基盤とインフラ/ハードとソフトの繋がりがより様々な人々と空間を繋ぎ、快適で安全で豊かな社会が構築できると考えています。 我々の立っている世界はより不確実性の高い時代になると考えています。 テック系産業は驚くほど速いスピードで変化していますし、かつ、パラダイムシフトが起きるスピードはどんどん速くなっていると感じています。 今後IoT企業として、第4次産業の知識集約的産業の創造を目指しつつ、すべてのモノの繋がりが起きてくる世界で新しい価値を創造し続けていきたいと考えています。
河瀬様 プレゼン資料より抜粋
最後に新しいことに挑戦していくために大切だなと感じていることをお伝えしたいと思います。 まずは、「 好きなコトをとことん追求しよう 」です。 すべてが出来なくても良いと思っています。自分の好きを徹底的に見つけてみることが重要で、オンリー1領域の確立とそのオンリー1でナンバーワンを目指すことです。 次に、「 アウトプットを大切にしよう 」です。 勉強するべきことはその時々で変わると思います。 重要なのはアウトプットすることでインプットの質とスピードが上がります。 十分なインプットをしてから進むというのもあるかもしれませんが、アウトプットをすることで必要なインプットが明確化されてきます。 最後は、「 仲間を大切にしよう 」です。 とにかく、仲間が重要です。 何をするかよりも誰とするかとも言えます。自らの使命に出会うために様々な仲間と繋がり対話をすることです。 今の自分と色んな事柄を絡めてみると良いと思います。 起業は考えるではなく、気づくこと。雷に打たれる感覚です。 未来に生きる感覚が重要だと思っています。
3.メンバーとの質疑応答タイム
Q)HRIが事業を創っていく立場としてとても参考になりました。起業家を育成していくなかでも様々な壁があると感じています。それを乗り越えるための本質は何だと考えていますか?
A)起業家はプロダクトアウト的な視点を持つ人が多いと感じています。世の中をどのように変えていきたいのかを考えています。しかしながら、お客視点から考えていない場合も多いのが現状です。受託型の起業家は大きくスケール出来ないが顧客視点は強い。一方でイノベーション型の起業家が顧客視点に行き過ぎてしまったら変革が起こせないというジレンマがあります。お客さまの顔を見すぎるとスケールできないし、遠い未来ばかりを語っても実現できない。このバランスが極めて重要だと考えています。
Q)起業から上場まででターゲットを変更していますが、その意思決定は?
A)ピボット( 方向変換 )した時の意思決定基準は、事業が数字で “イケてない” ことを確認したことです。起業家は突っ走ることも重要だけど、ピボットは合理的に判断する必要がある。その情熱と冷静さが極めて重要だなと思っています。
Q)最後のメッセージは経営層に向けてもやはり同様でしょうか?
A)熱意を持ってこだわりを持って進めていくことが重要だと思っています。いつも私は「 河瀬って運がいいよね 」と言われることが多いのですが、それは、うまくいかなくなる間際は何が何でも突破することを考え抜いているからだと思っています。 何十個というオプションを常に考えて動いているから、運が良いと言われる所以だと思うんです。 やはり、経営層は常に未来を仮説化し、想定される打ち手をいくつも考え抜いておくことが求められると感じています。
Q)河瀬さん自身、上場してみて変わったことはありますか?
A)戦略的撤退は出来るようになったと思います。 色々と挫折を味わった中で、自分が苦手な部分は戦略的に撤退をして、引いてみてみることが重要であるということをとても学びました。
4.結び
「 未来に生き、未来に欠けているものを作る 」「 企業アイディアは考えるのではなく、気づくもの 」。 学生時代から河瀬さんは未来を生き、気づきの多い視点の持ち主であったことを思い出します。 それは、誰よりも多くの事に問いを立ててきたから得られた観察力と知覚力だと感じます。 そして、何よりも突破していく実行力はいくつもの仮説と解決策を描き続けているからこそのチカラであると感じます。 自らの使命に出会える旅路をこれからも多くのメンバーと歩んでいきたいと思わせてくれました。 最後に、メンバーからの多数の質問に対して、実践知を交えながら丁寧かつ詳細に答えていただいた河瀬さんに、心より感謝申し上げます。
記:狩野 尚史
▼株式会社 Photosynth (フォトシンス)様企業サイト
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※本ページ画像はご本人の承諾を得て掲載しております。
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